オスプレイの事故率は民間機より低いの?①(データ検証編)
2016年12月13日、アメリカ海兵隊所属のオスプレイが沖縄県名護市の海岸に墜落しました。直後、オスプレイの事故率が民間航空機より低い事を示す右の画像が、SNSを中心に出回ります。しかし、この画像が示すデータはデマです。
本記事ではこの画像にあるデータの引用元を突き止め、また、その数値の検証を行いました。
このデマ画像が作成された経緯と拡散については、別の記事で改めて書きます。
1.データ元はどこか
デマ画像にある民間機事故率のデータは、airsafe.comがかつて公開していたものです。現在は公開を停止しているため、webarchiveでしか見ることができません。
画像はairsafe.comが民間航空機事故率(Asia and Australasia)として、2005年5月18日に公開していたものです。チャイナエアライン(台湾)、大韓航空、フィリピン航空の事故率の数値が、すべてデマ画像と一致しているのがわかります。
しかしここで、"Rate"とあるのは、「100万フライト(便数)」当たりの値であり、デマ画像にある「10万飛行時間」とは全く異なります。仮に1フライト当たり平均3時間程度飛行するとし、10万飛行時間当たりへと数値を変換すると、その1/30程度になります。
次に、軍用機事故率について見てみると、この数値は防衛省が公表したものと一致することがわかります。ただし、CH-52Dの値のみが4.51となっていて、デマ画像の4.15とは違います。これは単なる打ち間違いではありません。別の記事で述べますが、ここにデマ画像が作られていく経緯が隠れていました。
これら、定義や出典が全く異なる民間機と軍用機の事故率のデータを無理やり並べたのが「よーめんのブログ」です。なお、記事中に「参照;産経新聞」とありますが、産経から引用したのはその下にリンク引用された文章だけで、データの引用元は別です。
よーめんは、ネットで拾った事故率のデータを意味も理解せずに盗用し、単位まで間違えています。また、おそらく彼は、チャイナエアラインを中華人民共和国の航空会社だと思っているはずです。
この記事の冒頭のデマ画像は、このブログの数値をそのままグラフ化したものでした。
2.データの検証(民間機)
では、データ元にある数値はどのような意味を持っているのでしょうか。
はじめに、airsafe.comの事故率の算出方法について説明します。
airsafe.comでは、FLE:Full Loss Equivalent(全損相当事故件数)という考え方で事故を数えています。これは、乗客全員が死亡した事故を1.0、半数が死亡した事故を0.5などとして合計したもので、事故の軽重を加味しています。したがって、一般に、FLEは死亡事故件数よりも小さくなります。
FLEの計算例
乗客250人中250人が死亡した事故、100人中80人死亡した事故、500人中300人が死亡した事故を、それぞれ1回ずつ起こした航空会社の場合
250÷250+80÷100+300÷500=1.0+0.8+0.6
=2.4(FLE)
<3(死亡事故件数)
しかし、airsafe.comはハイジャックや軍事攻撃等による死亡も事故としてカウントしているため、必ずしもFLEが事故数より小さいとは限りません。大韓航空では、過去、北朝鮮によるテロやソ連軍による撃墜で乗客全員が死亡しているため、この分が2.0だけ加算されていることになります。
事故率は、このFLEの値を100万単位のフライト(便)数で割ることで算出しています。それがデマ画像にも使われている事故率の数値ですが、先に述べたように、デマ画像では「10万飛行時間当たり」となっていて、この時点でデマが発生しています。1フライト当たりの平均飛行時間を仮に3時間とすると、10万飛行時間当たりに換算するには、画像の数値を1/30にする必要があります。
フィリピン航空 :2.47→0.08
大韓航空 :2.58→0.09(テロや撃墜による全員死亡を含む)
チャイナエアライン:7.16→0.24
また、airsafe.comが掲載している値そのものについても、2001年からフライト数の値が全く更新されておらず(webarchive)、その後の安全性の向上が反映されていません。現在では事故率の数値そのものが削除されてしまっています。
チャイナエアラインは2002年を最後に死亡事故を起こしておらず、台湾のビジネス情報を提供しているワイズコンサルティングによれば、「100万飛行時間当たりの全損相当事故率」(これは100万飛行時間当たり)は大幅に改善しています。
この記事には、台湾の航空会社全体の「100万飛行時間当たりの全損相当事故率」の推移を示すグラフが掲載されています。これによれば、現在、台湾の航空会社の事故率は世界平均よりも低くなっていることがわかります。
3.データの検証(軍用機)
デマ画像に使われている軍用機の事故率は「10万飛行時間当たりのクラスA事故率」です。米軍は軍用機の事故をクラスAからCの3つに分類し、クラスAは「政府及び政府所有財産への被害総額が200万ドル以上、国防省所属航空機の損壊、あるい は、死亡又は全身不随に至る傷害もしくは職業に起因する病気等を引き起こした場合」としています。
クラスBやクラスCでは乗員は死亡していませんが、不時着や部品の落下事故等であれば下にいる住民が死亡するリスクがあるため、決して人身事故とは無関係なレベルの事故というわけではありません。
2012年9月27日放送の、テレビ朝日「モーニングバード」では、クラスBとCの事故率についても報道しています。
デマ画像でも、オスプレイの(クラスA)事故率は10万飛行時間当たり1.93となっていました。これはアメリカ海兵隊が2012年5月に発表したもので、かなり古いデータです。その後、カリフォルニア、アラビア湾、ハワイなどで事故が発生し、2015年12月段階での事故率は3.69にまで上昇しています。今回(2016年12月)の事故でさらに上昇したはずです。
海兵隊平均の事故率が2.45からほぼ変化していないとすれば、現在(2017年1月)、クラスA事故に限っても、オスプレイは平均より事故を起こしやすい機体だと言えることになります。
また、一般に、新型機の事故率は導入当初が高く、その後はパイロットの熟練や操縦ノウハウの蓄積などで低下し、機体の老朽化で再び上昇すると言われています。しかし、オスプレイについてはそうなってはいません(参考:琉球新報2016年1月6日)。これは、 オスプレイが他の機種とは違う特殊なリスクを抱えていると考えるべきではないでしょうか。
4.画像を修正するとどうなるか
まとめると、以下のようになります。
- 民間機について、仮に1フライト平均の飛行時間を3時間と見積もると、デマ画像にある数値は1/30程度にする必要がある。
- 民間機事故率は元データが作られた時点から大幅に改善している。
- オスプレイの事故率は、元データが作られた時点から倍近くに上昇している。
これを踏まえて画像を作り直すと次のようになります。
オスプレイが民間機より安全などとは、決して言えないことがわかります。
5.補足:実戦配備されたオスプレイ
ここまで述べた軍用機の事故率は、訓練と実戦を区別していない飛行時間についてのものでした。実戦での飛行に限った事故率についての記事が、2016年1月15日の沖縄タイムスに掲載されました。
この記事は、アフガニスタンに配備された海兵隊所属の航空機に関する米軍の報告書に基づくものです。これによると、同国に配備されたオスプレイの運用率は1%程度に過ぎず、10万飛行時間当たりのクラスA事故率は138.19と突出しています。
オスプレイは実戦では使い物にならない上、事故率も極端に高いという散々な結果です。ただ、飛行時間が723.6時間しかないため、その事故率に統計的な意味があるかどうかは議論が必要です。
アメリカ海兵隊が沖縄にいる理由は、沖縄防衛のためでも、日本防衛のためでもなく、訓練のためです。今後、オスプレイが実戦に即した訓練をすればするほど、事故はさらに増えるおそれがあります。
6.その後
2016年の事故から約8か月後、オスプレイはオーストラリアでも墜落し、3名の死者を出しました。事故機は名護市沖で墜落したものと同じ、沖縄海兵隊普天間飛行場に所属する機体でした。
11月8日、防衛省は海兵隊所属のオスプレイについて、9月末時点のクラスA事故率を発表しました。その値は10万飛行時間当たり3.27であり、海兵隊所属機体平均の2.72(これも2017年9月末時点)を大きく上回る値となっています。