情報審査

ネット上のデマを検証をしたり、気になることを整理して書いたりします。

枝野幸男 桜木町駅前演説(10月16日) 文字起こし

 

立憲民主党枝野幸男代表が、10月16日に桜木町駅前で行った演説について、文字起こししました。

 
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0.挨拶

冷たい雨にもかかわらず、たくさんの皆さんにお集まりいただき、あるいは足を止めていただき、本当にありがとうございます。立憲民主党代表の枝野幸男でございます。

 

1.はじめに

皆さんに、背中を押していただいて、立憲民主党、新しい党を、立ち上げました。民主党民進党で積み重ねてきた2年の政策を、この選挙で掲げて戦うことができない。そんな中で、多くの皆さんに背中を押していただきました。その積み重ねを踏まえた上で、なぜ多くの皆さんから、背中を押して頂いたのか。今の政治に対して、おかしい、何とかしろ、そんな思いが、背中押していただいた。その声を踏まえて、さらにもう一段、日本の民主主義を前に進めていきたい。そんな思いで、新しい旗、立憲民主党を、立ち上げさせていただきました。右でも左でもない、今問われているのは、上からか下からか。上から押さえつける政治、上から何とかしようという政策、もう時代に合っていない。草の根の民主主義を、暮らしの足元からの政策を、新しい選択肢を、皆さんに示していきたい。私はそう思っています。

 

2.アベノミクスについて
上からの政策、アベノミクス、強い者をより強くしました。でも格差は拡大をし、社会は分断をされています。時代に合わなくなってるんです。かつて高度成長の時代は、確かに、企業が大きく稼いで、それが全国津々浦々に行き渡って、分厚い中間層を作り、経済大国日本を作りました。でもあれは、まだ日本が貧しかった時代、人口が伸びていた時代、その時代の成功体験です。今の日本は違います。成熟社会になって、少子高齢化が進んでいます。そうした中で強いものをより強くしても、社会も経済も元気にならない。それがアベノミクス5年間の結果ではないでしょうか。

 

3.公正な社会
アベノミクスで強いものをより強くするために、自由にすれば、競争をさせれば、世の中良くなるんだ。こうした新自由主義的な流れがあまりにも強くなりました。そして蓮舫さんからも話がありました。自己責任を政治が煽る。そんな流れが極端になりました。でもこれが間違っているんです。これを変えなければならない。確かに競争は大事です。でも競争が社会を良くするためには、その大前提があります。公正公平なルールのもとで競争が行わなければならないんです。公正公平なルールを作る責任はどこにあるのか。政治の責任じゃないですか。公正公平なルールを守らせる。政治の責任じゃないですか。色々な所で、ルールなき競争が、ルールを守らない競争が、行きすぎている。それを私は変えていきたい。

 

4.派遣労働について

一例だけあげます。働き方です。非正規が4割にもなってしまった。これが格差を拡大させている大きな要因です。その多くは派遣労働です。20数年前、派遣で働く人はごく一部でした。それがルールでした。特別な技術技能を持った専門的な仕事しか、派遣は認められなかったんです。だからむしろ、派遣で働いていた人は、正社員よりも恵まれた環境だと言われています。あっという間にこの20年で、正社員を派遣に置き換える。こんなルールに変えてしまったんです。
働くということはどういうことでしょうか。確かに使う側からは、安い賃金で、いらなくなったらすぐクビにできる、その方が便利です。でも、働く側から見れば、働くということは、自分の家族の暮らしの営みを支える行動じゃないでしょうか、皆さん。
それがいつクビになるかわからないような働き方では、真っ当な暮らしはできないじゃないですか。あまりにも低賃金では、自分一人が食べていくのがカツカツで、希望しても家族を持ったり、子供を産み育てたりすることはできないじゃないですか。こんな働かせ方は真っ当なルールではありません。だから、派遣法を元に戻していきましょう。一気にやったら中小零細は潰れてしまいます。段階がいります。でも真っ当な道に戻していく、第一歩を踏み出させて頂きたいと思うんですよ、みなさん。

 

5.長時間労働
働き方はルールがおかしくなっただけではありません。ルールが守られていません。長時間労働、過労死自殺、そしてブラック企業、そしてサービス残業、こんな言葉がまかり通ってるのはおかしいですよ。残業したのに残業代払わなければ、違法行為なんですから。違法なことがまかり通っている。守らせる責任は誰にあるんですか、政府の責任じゃないですか。長時間労働をむしろ厳しく規制していくことが、これからの日本の道じゃないですか。
もし解散をしていなければ、今頃国会で、残業代ゼロ法案が審議をされていたんです。ただでさえ払わなければならない残業代を払っていないのがまかり通っているのに、残業しても残業代払わなくてもいいだなんていう仕組みを作っては、やってることは全く逆じゃないですか。
働いたら働いただけ給料をもらう。そんな当たり前のことを取り戻そうじゃありませんか、皆さん。

 

6.政治と自己責任論

自己責任。私も自己責任で党を立ち上げました。篠原さんも、高橋さんも、伊藤さんも、自己責任で、今回、厳しい道だけれども、私たちと一緒に戦うという道を選んでくれました。でも、人生を通じて、自己責任だけで生きていける人間なんて1人もいません。誰もが、自分の力だけではどうにもならない時があります。
年をとれば、体が弱って介護が必要になるかもしれません。今は健康で、高い給料もらって、商売うまくいっている人でも、明日重い病気にかかるかもしれない。事故にあって、体が不自由になるかもしれない。人生誰にでも、自分の力だけではどうにもならない事がある。その時のためにあるのが、政治なんじゃないでしょうか。政治が自己責任を煽るというのは、政治の責任放棄以外の何物でもないと、私は思います。

 

7.介護と保育

困った時に寄り添う政治、いろんなところでやらなければならないことがありますが、ひとつだけ、具体例を言わせてください。蓮舫さんの話でもありました。介護や、保育、老後、体が弱ってくれば、自分の力だけではどうにもならない。今の日本社会では、夫婦2人で子供を育てていく、とても困難です。困った時にしっかりとした、介護、保育ご提供する。まさに政治の責任です。でも、どちらも足りません。足りない大きな理由は、人手不足です。介護の職員が集まらない。保育士さんが集まらない。なぜならば、命にも関わる重い責任、肉体を使う重労働、にも関わらず低賃金だからです。おかしいんです。日本は資本主義の国です。資本主義の国では、値段というのは、需要と供給のバランスで決まるんです。欲しい人がたくさんいて、売ってる人が少なければ、値段は上がる。それが真っ当な資本主義です。介護で働いてくれる人が足りない。でも介護のサービスを待っている人がたくさんいる。だとしたらその賃金は上がらなきゃおかしいんですよ。保育所が足りないと叫び声をあげている若い人たちがたくさんいる。でも保育士さんが足りなければ、保育士さんの給料、上がらなければおかしいんですよ。なぜ安く抑えられているのか、それは、どちらも政治がそこに使うお金を、安く抑えているからに他ならないじゃないですか。ちゃんとしたサービスが提供できるように、介護職員の給料を上げましょう。保育士さんの給料を上げましょう。大型の公共事業、ないよりはあった方がいいです。この桜木町駅前だって、開発をして綺麗になって、それは便利になりました。ないよりはあった方がいいものはたくさんあります。でもそれよりも、老後の不安や子育ての不安を小さくする。限られた資産は、そちらに優先的に流すべきではありませんか?

 

8.格差と景気
経済が、景気が悪いのは、格差の拡大が原因です。年収300万400万貯蓄や投資に回す金なんてありません。所得の低い人ほど、手にした収入は、ほぼ100%消費に回ります。でも年収一億二億の人が、さらに年収が倍になったからといって、消費に回りますか?回りませんよね。お金持ちほど金を使わない。消費性向と言います。これは経済の当たり前の大前提です。格差が拡大をして分厚い中間層と言われている人たちがどんどんどんどん少なくなって、その分貧困の、苦しんでいる人たちが増えれば、それは消費を冷えこませている原因の一つになっているんです。所得の低い介護職員や保育士さんの賃金を底上げすれば、そこに回したお金の分だけ、消費が自動的にほぼ増えるんですよ。介護も保育も、需要はたくさんあります。賃金が上がって、それなら働いてみようかという人たちがたくさん増えてくれば。どんどんどんどん職場自体が増えていって、新しい雇用の場が生まれる。そこに流していくお金はほぼ100%そのまま消費に回るんですよ。
消費不況を止めていくためには、こうして、暮らしの足元にお金を流していくことが必要なんじゃないでしょうか。さらに、それで老後の安心が子育ての安心が高まっていく。景気対策に子供を産んでもらうわけじゃありません。でも希望する人達が安心して子供を産み育てることができるようになって、そして出生率が上がれば、それが自動的に消費につながるじゃないですか。
お年寄りの皆さんの中には、若い頃、老後のためにと思ってコツコツお金を貯めてきた。大きな額ではないけれども、老後のための蓄え持っている人、少なからずいらっしゃいます。でも老後になっても使えない。それは介護や医療の不安があるから。元気なうちに使った方が幸せですよね。それで消費が伸びるんですよ。強いものをより強くするのではなくて、暮しを下からしっかり支えて押し上げる。それは貧しい人、気の毒な人のためだけではない。そのことによって、国の中でお金が回って、経済を、社会そのものを元気にして行く道だと、私は自信を持って皆様方にお訴えをさせていただきたいと思います。

 

9.立憲主義

上からの政策になっているのは、政治が上から目線になっているからに他なりません。権力を持っているから、力を持っているから、下々の者は言うことを聞け。そんな政治になっていませんか、皆さん。
総理大臣は何で総理大臣に何でしょうか。なぜその権限を預かっているのか。国会議員はなぜ国会議員として法律を作って皆さんに命令しているのか。選挙で勝ったから?それは50点。憲法というルールに基づいて選ばれているから、総理大臣は総理大臣なんです。その総理大臣が持っている権限は、権力は、憲法というルールで決められた範囲に限られてるんです。権力を持っているから何をしてもいいというのは18世紀です。どんな権力も憲法というルールに従って使われなければならない。19世紀に確立して20世紀に当たり前になったんです。日本でも戦前は立憲政友会とか立憲民政党とか立憲主義を掲げなければならない時代でした。でも戦後70年、当たり前の事を、皆が立憲主義なんて当たり前のことを忘れてしまってもいい世の中になっていたはずなのに、歴史を100年以上戻してしまったのが安倍さんの立憲主義の破壊なんです。みっともない!立憲主義を今更掲げなければならない国になってしまったことは、みっともない。みっともないけれども掲げなければならない。取り戻さなければならない。安保法制は平和の問題としても大事です。でも、この憲法という、権力を縛っているルールを権力者が勝手に都合よく解釈を変える。こんな近代国家としてはありえないことを、絶対許してはいけないと私は思います。

 

10.民主主義と説明責任

民主主義も歪んでいます。多数決はつきものかもしれません。でも、民主主義と多数決はイコールではありません。民主主義というのは、主権者である国民の皆さん、みんなで決めようというのが民主主義です。1億2000万人を超える、国民みんなで集まって相談はできません。だから国会議員を選ぶんです。そして1億2000万人を超える国民の意見が、全部一つになることはありえません。だから最後の最後は多数決で決めるんです。でも初めから、数を持っているから、反対意見に耳を傾けない、反対意見は排除する、いや、そもそも国民に判断をしてもらうための、情報提供をしていない、森友加計 PKO の日報問題、国民の皆さんに情報を隠しごまかし開き直る。そして反対意見が多い法案・政策、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪、その直前の選挙できちんと説明しましたか?説明してないでしょう?今日では違うことを言って勝ったら強引にやる。本当の民主主義ではありません。ましてや、国会の審議などを通じて、国民の皆さんに説明して、説得して、理解してもらおう姿勢は見られましたか?覚えてますよね、共謀罪法務大臣。大臣自身が中身わかってないんだから、国民に説明しようがない。それでも数を持っているから開き直って強引に押し切る。これは、本当の民主主義ではありません!

 

11.草の根の民主主義
時代のスピードをが速くなっています。皆さんの意見を聞きたいけど、聞く間もなく即断即決しなければならないこともあります。だから、強いリーダーシップを全面的に否定をするつもりはありません。でも、一方で、そうやって強いリーダーシップで、即断即決をしなきゃならない側面が強くなっている。その一方で、世の中の価値観がますます多様化しています。皆さんの暮らしも多様化しています。一億総中流と言われた時代は、金太郎飴のような社会だと言われました。あまりみんなに違いがない、もちろん、その中でも多様な考え方、多様な価値観がありました。でも、今の時代はその時代と比べてますます多様化しています。都市と地方で、豊かな人とそうでない人で、高齢者と若者で、正社員と非正規で、本当に多種多様な暮らしがある。価値観も、多種多様に分かれています。そんな中で、えいやぁ、どーん、という決め方を積み重ねていったら、政治が遠いところに俺たちには関係ないやというところに、どんどんどんどん向かってしまうではありませんか。そんな、遠心力の働く政治と社会で、本当に未来を切り開けますか。多様化している社会だからこそ、その多様な意見にしっかりと耳を傾ける。全部を一致させることは難しいけれども、最大限の努力をする。それがその時代の民主主義なんじゃないですか。21世紀の社会のあり方なんじゃないですか。私はそうした草の根からの民主主義を、取り戻す。この国に草の根からの本当の民主主義を作り上げる。その大きな一歩を、立憲民主党立ち上げたことで、この総選挙を通じて、踏み出していきたいと思うんですが、皆さん、いかがでしょうか?

 

12.立憲民主党はあなたです!
10月2日に、新しい党を立ち上げることを決意いたしました。
正直言って迷いました。まあ私も8期やってますから、地元でもそれなりに知名度はあるんで、無所属でもやれるかなぁ。無所属だとね、自分の選挙中心にできたんですよ。今頃京浜東北線の向こう側で、大宮で、自分の選挙やってるでしょう。正直言って迷いました。でもそんな私の背中を押して、これは新しい旗を掲げて、しっかりとした皆さんの受け皿を作らなきゃならない。どこの党に入れたらいいかわからない、こういう声に、背中を押されて、立憲民主党を立ち上げることを決意をしました。だから、立憲民主党を作ったのは、私、枝野幸男ではありません。私に対して、「枝野立て」と背中を押してくれたあなたが、立憲民主党を作ったんです。
立憲民主党はあなたです!一緒につくる民主主義を、一緒に歩く本当の民主主義をスタートさせませんか?今までの政治なら、ここで篠原さん、伊藤さん、高橋さん、応援してください、お願いをするんです。でも私は、違うんだと思うんです。この戦いは、国民の皆さんが、主権者としての権利を取り戻す、民主主義を取り戻す、その戦いです。その戦いの主役は政治家でありません。候補者でありません。主権者であるあなたなんです。だから、私はこう呼びかけさせていただきたいと思います。私たちと一緒に、この選挙、戦いませんか?一緒に戦いませんか、皆さん!
まだまだこれまでの政治の流れの中で、諦めてしまっている人、どうせダメだろう、どうせ変わらないだろう、思っている人達がたくさんいます。是非皆さん当事者としてその人たちに声をかけてください。1人でも2人でも3人でも、変わるかもしれないよ、一緒に変えようよ。一人でも多くの人に声をかけましょうよ。そしてこの輪を、広げていきましょうよ。そしてこの2017年、日本の民主主義は一歩大きく前に踏み出した。そういう結果をあなたがつくるんです。あなたとわたしとみんなでつくるんです!是非そうした、そうした力を皆さん、出していこうでありませんか!そのために私たちも全力で戦います。でも私にはあなたの力が必要です。

一緒に頑張りましょう!

一緒に戦いましょう!

ありがとうございました!

 

オスプレイの事故率は民間機より低いの?①(データ検証編)

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 2016年12月13日、アメリカ海兵隊所属のオスプレイ沖縄県名護市の海岸に墜落しました。直後、オスプレイの事故率が民間航空機より低い事を示す右の画像が、SNSを中心に出回ります。しかし、この画像が示すデータはデマです。

 本記事ではこの画像にあるデータの引用元を突き止め、また、その数値の検証を行いました。

 このデマ画像が作成された経緯と拡散については、別の記事で改めて書きます。

 

 

1.データ元はどこか

 デマ画像にある民間機事故率のデータは、airsafe.comがかつて公開していたものです。現在は公開を停止しているため、webarchiveでしか見ることができません。

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 画像はairsafe.comが民間航空機事故率(Asia and Australasia)として、2005年5月18日に公開していたものです。チャイナエアライン(台湾)、大韓航空、フィリピン航空の事故率の数値が、すべてデマ画像と一致しているのがわかります。

 しかしここで、"Rate"とあるのは、「100万フライト(便数)」当たりの値であり、デマ画像にある「10万飛行時間」とは全く異なります。仮に1フライト当たり平均3時間程度飛行するとし、10万飛行時間当たりへと数値を変換すると、その1/30程度になります。

 次に、軍用機事故率について見てみると、この数値は防衛省が公表したものと一致することがわかります。ただし、CH-52Dの値のみが4.51となっていて、デマ画像の4.15とは違います。これは単なる打ち間違いではありません。別の記事で述べますが、ここにデマ画像が作られていく経緯が隠れていました。 

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 これら、定義や出典が全く異なる民間機と軍用機の事故率のデータを無理やり並べたのが「よーめんのブログ」です。なお、記事中に「参照;産経新聞」とありますが、産経から引用したのはその下にリンク引用された文章だけで、データの引用元は別です。

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 よーめんは、ネットで拾った事故率のデータを意味も理解せずに盗用し、単位まで間違えています。また、おそらく彼は、チャイナエアライン中華人民共和国の航空会社だと思っているはずです。

 この記事の冒頭のデマ画像は、このブログの数値をそのままグラフ化したものでした。 

2.データの検証(民間機)

 では、データ元にある数値はどのような意味を持っているのでしょうか。

 はじめに、airsafe.comの事故率の算出方法について説明します。

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 airsafe.comでは、FLE:Full Loss Equivalent(全損相当事故件数)という考え方で事故を数えています。これは、乗客全員が死亡した事故を1.0、半数が死亡した事故を0.5などとして合計したもので、事故の軽重を加味しています。したがって、一般に、FLEは死亡事故件数よりも小さくなります。

FLEの計算例

乗客250人中250人が死亡した事故、100人中80人死亡した事故、500人中300人が死亡した事故を、それぞれ1回ずつ起こした航空会社の場合

250÷250+80÷100+300÷500=1.0+0.8+0.6

              =2.4(FLE)

              <3(死亡事故件数)

 しかし、airsafe.comはハイジャックや軍事攻撃等による死亡も事故としてカウントしているため、必ずしもFLEが事故数より小さいとは限りません。大韓航空では、過去、北朝鮮によるテロやソ連軍による撃墜で乗客全員が死亡しているため、この分が2.0だけ加算されていることになります。 

 事故率は、このFLEの値を100万単位のフライト(便)数で割ることで算出しています。それがデマ画像にも使われている事故率の数値ですが、先に述べたように、デマ画像では「10万飛行時間当たり」となっていて、この時点でデマが発生しています。1フライト当たりの平均飛行時間を仮に3時間とすると、10万飛行時間当たりに換算するには、画像の数値を1/30にする必要があります。

 フィリピン航空  :2.47→0.08  

 大韓航空     :2.58→0.09(テロや撃墜による全員死亡を含む)

 チャイナエアライン:7.16→0.24

 また、airsafe.comが掲載している値そのものについても、2001年からフライト数の値が全く更新されておらず(webarchive)、その後の安全性の向上が反映されていません。現在では事故率の数値そのものが削除されてしまっています。

 チャイナエアラインは2002年を最後に死亡事故を起こしておらず、台湾のビジネス情報を提供しているワイズコンサルティングによれば、「100万飛行時間当たりの全損相当事故率」(これは100万飛行時間当たり)は大幅に改善しています。

www.ys-consulting.com.tw

 この記事には、台湾の航空会社全体の「100万飛行時間当たりの全損相当事故率」の推移を示すグラフが掲載されています。これによれば、現在、台湾の航空会社の事故率は世界平均よりも低くなっていることがわかります。

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 3.データの検証(軍用機)

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 デマ画像に使われている軍用機の事故率は「10万飛行時間当たりのクラスA事故率」です。米軍は軍用機の事故をクラスAからCの3つに分類し、クラスAは「政府及び政府所有財産への被害総額が200万ドル以上、国防省所属航空機の損壊、あるい は、死亡又は全身不随に至る傷害もしくは職業に起因する病気等を引き起こした場合」としています。

 クラスBやクラスCでは乗員は死亡していませんが、不時着や部品の落下事故等であれば下にいる住民が死亡するリスクがあるため、決して人身事故とは無関係なレベルの事故というわけではありません。

 2012年9月27日放送の、テレビ朝日モーニングバード」では、クラスBとCの事故率についても報道しています。

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 デマ画像でも、オスプレイの(クラスA)事故率は10万飛行時間当たり1.93となっていました。これはアメリカ海兵隊が2012年5月に発表したもので、かなり古いデータです。その後、カリフォルニア、アラビア湾、ハワイなどで事故が発生し、2015年12月段階での事故率は3.69にまで上昇しています。今回(2016年12月)の事故でさらに上昇したはずです。

 海兵隊平均の事故率が2.45からほぼ変化していないとすれば、現在(2017年1月)、クラスA事故に限っても、オスプレイは平均より事故を起こしやすい機体だと言えることになります。

 また、一般に、新型機の事故率は導入当初が高く、その後はパイロットの熟練や操縦ノウハウの蓄積などで低下し、機体の老朽化で再び上昇すると言われています。しかし、オスプレイについてはそうなってはいません(参考:琉球新報2016年1月6日)。これは、 オスプレイが他の機種とは違う特殊なリスクを抱えていると考えるべきではないでしょうか。

4.画像を修正するとどうなるか

 まとめると、以下のようになります。

  1. 民間機について、仮に1フライト平均の飛行時間を3時間と見積もると、デマ画像にある数値は1/30程度にする必要がある。
  2. 民間機事故率は元データが作られた時点から大幅に改善している。
  3. オスプレイの事故率は、元データが作られた時点から倍近くに上昇している。

 これを踏まえて画像を作り直すと次のようになります。

 

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 オスプレイが民間機より安全などとは、決して言えないことがわかります。

5.補足:実戦配備されたオスプレイ

 ここまで述べた軍用機の事故率は、訓練と実戦を区別していない飛行時間についてのものでした。実戦での飛行に限った事故率についての記事が、2016年1月15日の沖縄タイムスに掲載されました。

 この記事は、アフガニスタンに配備された海兵隊所属の航空機に関する米軍の報告書に基づくものです。これによると、同国に配備されたオスプレイの運用率は1%程度に過ぎず、10万飛行時間当たりのクラスA事故率は138.19と突出しています。

www.okinawatimes.co.jp

オスプレイは実戦では使い物にならない上、事故率も極端に高いという散々な結果です。ただ、飛行時間が723.6時間しかないため、その事故率に統計的な意味があるかどうかは議論が必要です。

 アメリカ海兵隊が沖縄にいる理由は、沖縄防衛のためでも、日本防衛のためでもなく、訓練のためです。今後、オスプレイが実戦に即した訓練をすればするほど、事故はさらに増えるおそれがあります。

 

6.その後

 2016年の事故から約8か月後、オスプレイはオーストラリアでも墜落し、3名の死者を出しました。事故機は名護市沖で墜落したものと同じ、沖縄海兵隊普天間飛行場に所属する機体でした。

www.jiji.com

 11月8日、防衛省海兵隊所属のオスプレイについて、9月末時点のクラスA事故率を発表しました。その値は10万飛行時間当たり3.27であり、海兵隊所属機体平均の2.72(これも2017年9月末時点)を大きく上回る値となっています。

digital.asahi.com